Story
合格者のストーリー
「これをしないと前に進めないじゃないですか。」
Ali Mughniさんはそう言いながら、インドネシアの西ジャワ島の自室で鏡の前に立って面接練習をしていた場面を振り返る。SMA Presidentというミリタリー高校の生徒。周囲に慶應SFCのGIGA入試を知っている人は誰もいない。塾もない。情報もない。それでも「慶應がトップ」という一つの情報とGIGAプログラムの発見が、この少年を動かした。
IELTS8.0という英語力と、日本語を独学で習得してMEXT奨学金を取得したという実績。独学で開発しインドネシアの高校生が実際に使用した教育プラットフォーム。ムエタイの試合出場、複数の学術競技。そして90%独学の受験対策——これらが書類と面接を通じて「インドネシアと日本の架け橋を作る人物」として評価された。現在、Aliさんは慶應SFCの大学2年生として研究室に所属し、来月に学会発表を控えている。「日本は本当に住みやすいところだ。みんなが優しい」という言葉と共に、西ジャワ島から始まった軌跡を語ってくれた。
西ジャワ島からミリタリー高校へ—軍隊の夢と「自分に合わない」気づき

Ali Mughniさんが育ったのは、インドネシアの西ジャワ島だ。マレーシアと隣接するこの島で中学時代を過ごし、「軍隊に入りたい」という夢を持ってSMA Presidentというミリタリー高校に入学した。家族の元を離れた寮生活。朝5時起床、起床・食事・就寝まで全てを集団で行動するという規律の厳しい生活が始まった。運動訓練があり、個人の活動は制限される。「軍人になりたい」という夢を胸に門をくぐった少年は、最初の1年で大きな問いに直面することになる。
「自分に合わない」——この気づきは、負けを認めることではなかった。むしろ逆だ。厳しい規律の中で生活しながら、Aliさんは「自分が本当に何をしたいのか」を考え続けた。全てが決められた生活の中にいるからこそ、自分の内側にある欲求が浮かび上がってくる。語学を学びたい。プログラミングを触りたい。教育という分野に関わりたい——軍隊という夢の終わりが、「自分は何者になりたいのか」という問いの始まりだった。この転換を経たAliさんの視線は、閉じた世界から外へと向かっていく。「人生で何がしたいかをずっと考えて、やりたいことがあったらそれをやる」というAliさんの信念は、この1年生の経験から生まれた言葉だった。
ムエタイ・プログラミング・教育プラットフォーム—独学で3つの武器を作った高校時代
高校2〜3年生にかけて、Aliさんは独学で多様な活動を積み重ねた。ムエタイの大会に選手として出場し、物理学・数学・生物・英語の学術競技(地域レベル)と音楽芸術競技(都市レベル)に参加した。プログラミングを独学で習得し、「インドネシアの学生が日本語を学べる教育プラットフォーム」の開発に取り組んだ。このプラットフォームは、実際に他の高校生が使用するレベルまで完成した。高校生が作ったプラットフォームを別の高校生が使う——その事実は、後の書類で「理論と実践の融合」を証明する強力な一次情報になった。動画編集技術も独学で習得し、後の自己紹介動画を自分で編集することになる。一つひとつの活動に共通していたのは、誰かに言われたからではなく「自分がやりたいからやる」という動機だった。その純粋さが、書類に宿る説得力の源泉だった。
「慶應がトップ」—GIGAプログラムという選択肢の発見
「海外に行きたい」という気持ちが芽生えてネットで検索を始めたAliさんは、「日本では慶應がトップ」という情報に辿り着いた。「日本は住みやすい、みんなが優しい」というイメージも後押しした。慶應のサイトを訪問した時、GIGAプログラム(Global Information and Governance Academic)の存在を発見した。「英語で勉強できる」——この一言が全てを決めた。「これにしよう」という即決だった。
IELTS8.0という英語力は、この決断の裏付けだった。さらにAliさんには、日本語を独学で習得してMEXT奨学金を取得したという実績もあった。英語と日本語という2つの言語を、どちらも独学でここまで高めたという事実は、「言語習得への並外れた意欲と能力」を示す客観的な証拠だった。GIGAプログラムという「英語で学ぶ慶應SFC」を目指すにあたって、IELTS8.0という英語力はもちろん、日本語で奨学金を取得できるほどの習得力が、「日本の研究環境にも深く入り込める人物」という評価を支えた。
インドネシアと日本の架け橋—志望動機の核心

「言語教育の問題は政策レベルで解決しないといけない」というAliさんの問題意識は、SFCという場所でなければ研究できないという確信から生まれていた。「文化と教育政策を実践的に学べる。理論を学びながら、実際にプロジェクトを動かせる。研究と実践、両方できる環境が必要だった」——そしてもう一つの動機が「インドネシアと日本の架け橋を作りたい」という将来ビジョンだ。この2つの軸が書類の核心を形成していた。高校で作った教育プラットフォームは、まさにその架け橋の最初の実践だった。「言いたいことが大学の研究計画と繋がっている」という一貫性が、審査官の目に「本物の志望動機」として映ったはずだ。
90%独学・鏡の前の面接練習—塾ゼロでGIGA入試を突破した受験戦略
インドネシアには海外大学進学に特化した塾がない。Aliさんは慶應のサイトの情報を全て書き出し、英語版サイトも活用し、「どんな書類を準備すべきか」を独力で把握した。この受験対策の90%は独学だった。書類の構成は、活動ドキュメント・研究したい内容の回答・自分の強みと弱みを示す性格テスト・SFCでの学習計画書という4つだ。自己紹介動画(2〜3分)は自分で撮影し、自分で編集した。
面接練習は、鏡の前と録画の2パターンで行った。一人でカメラの前に立ち、自分の言葉を自分の目で確かめながら話す練習。それは想像以上に恥ずかしい作業だった。「恥ずかしいんですけど、これをしないと前に進めないじゃないですか」という言葉に、その覚悟がある。高校の同級生のほとんどがインドネシアの国内大学を目指す中、海外の大学にオンラインで面接を受けようとしている少年が、一人で鏡の前に立ち続けた。その孤独な準備が、面接本番での「自分の言葉」を作り出した。本番はオンライン形式、面接官3人対1人、英語と日本語の混合という特殊な形式だったが、鏡の前で繰り返した準備がそのまま力になった。
書類・動画・面接——GIGA入試3つの審査の突破方法
「お互いできるだけ話があるっていうものなんです」という言葉に、Aliさんの面接観が凝縮されている。「試験」ではなく「相互理解の場」として面接を捉えたことが、「今までの活動をなぜやったのか」という理由の整理につながった。プラットフォーム開発・ムエタイ・MEXT奨学金という活動は、それぞれ「インドネシアと日本の架け橋」という一本の軸で貫かれていた。面接でどんな質問が来ても、この軸に戻れば答えられる——その確信が、3人の面接官を前にしたオンライン面接の場で、自然体の言葉を生み出した。
「素直に自分の活動の価値を伝える」—合格者が語るGIGA入試の本質
「自分の活動をどう説明するかが一番難しかった」というAliさんの言葉は、GIGA入試に挑む全ての受験生への最も実践的なアドバイスだ。奨学金申請でも同じ困難に直面したという経験が、「活動の価値を言語化する力」を鍛えた。実績は持っているだけでは意味がない。それが「なぜその問いに向き合うのか」「それが社会にどう繋がるのか」という文脈で語られた時、初めて書類と面接の武器になる。「一回チャレンジして、それが大事です」——この言葉が示すように、Aliさんにとって受験対策そのものが「やりたいことがあったらやる」という信念の実践だった。
慶應SFCが評価した3つのポイント—教育×技術×多様性
AliさんのGIGA入試合格を振り返ると、評価されたポイントは3つに整理できる。
第一は、教育プラットフォーム開発という「理論×実践」の融合だ。「言語教育の問題は政策レベルで解決する」という理論的な問題意識と、実際に高校生が使用する教育プラットフォームを独学で開発したという実証の組み合わせは、SFCの「研究と実践の両方ができる環境を求める」という学風と完全に合致した。大学でやりたい研究が、すでに高校で形になっていた——その事実の重みは、どんな言葉より雄弁だった。
第二は、IELTS8.0×MEXT奨学金×プラットフォームという3方向の一次情報だ。英語力・日本語力・技術力という異なる3つの領域での実証が、「インドネシアと日本の架け橋を作る人物」という志望動機の信頼性を圧倒的に高めた。どれか一つだけでは「言っているだけ」に見えてしまう志望動機が、3つの実証によって「本物」になった。
第三は、「人生でやりたいことがあったらやる」という一貫した行動姿勢だ。ムエタイ・学術競技・音楽芸術・プログラミング・言語学習という多様な活動を全て独学で積み上げた姿勢は、GIGAプログラムが求める「グローバルな視点で自ら課題を発見し解決できる人物」という像を体現していた。
「人生でやりたいことがあったらやる」——GIGAプログラムが求めた人物像
慶應SFCのGIGAプログラムは、英語で学ぶことができる代わりに、「グローバルな課題に主体的に取り組む人物」を求めている。ミリタリー高校での「合わない」という気づきから新しい道を切り開き、インドネシアから情報ゼロ・塾ゼロの状況で鏡の前に立ち続けたAliさんの姿勢が、この人物像と完全に合致した。「やりたいことがあったらやる」という信念は、受験のために作り上げたものではなく、ミリタリー高校の1年生から積み重ねてきた生き方そのものだった。だからこそ、書類にも面接にも本物の言葉が宿った。
大学2年で学会発表予定—SFCでの研究生活と「日本は住みやすい」
大学1年生から研究室に入り、教育をテーマとした研究を続けているAliさんは、来月に学会発表を控えている。国際寮では日本人と外国人が混在し、日本語と英語を使い分けながら生活している。ムエタイはキャンパス近くに練習場所を確保して継続し、ハロウィンなどのイベントにも積極的に参加している。日本語でのディスカッション授業に「今も不安」と言いながらも、「こういう環境が完璧、もうこれでいい」という満足感に包まれている。
「日本生活はいいことも悪いこともあるんですけど、やっぱ楽しいです」——西ジャワ島の朝5時起床から始まった挑戦は、慶應SFCという舞台で続いている。「もっと一緒に人生を楽しみましょうっていう仲間が増えたらいいな」——海を越えて日本にやってきた少年が、今度は自分の言葉で誰かの背中を押そうとしている。ミリタリー高校で「自分に合わない」と気づいた瞬間から、全てはここに向かっていたのかもしれない。
受験生・保護者へ|「恥ずかしさを乗り越える行動力」と「一次情報を作る力」が合格への本質
Ali Mughniさんが総合型選抜・GIGA入試を目指す後輩たちへ贈るメッセージは、3つのポイントに集約できる。
まず、「自分の活動を、問題解決の実践として語る言葉を持つこと」。プラットフォームを開発したという事実だけでは書類にならない。「なぜそれを作ったのか」「それが社会のどんな問題を解決しようとしているのか」を言語化できた時、初めて書類と面接の武器になる。どんな活動も、その文脈なしには評価されない。「自分の活動をどう説明するかが一番難しかった」というAliさんの言葉は、この言語化の力こそが合格を左右するという実体験から来ている。
次に、「恥ずかしくてもやる。それが前に進む唯一の方法」。鏡の前での面接練習は恥ずかしい。録画した自分の映像を見返すのは居心地が悪い。しかし「これをしないと前に進めないじゃないですか」という言葉の通り、恥ずかしさを乗り越えた先にしか本番での自分の言葉は生まれない。塾がなくても、情報が少なくても、行動する覚悟を持てた人間が突破口を開く。
そして最も重要なのが、**「一次情報を作ること」**だ。AliさんのIELTS8.0・MEXT奨学金・教育プラットフォームという3つの実績は、いずれも「誰かに評価された客観的な事実」だ。これらは書類に「あなたは本物だ」という信頼性を与える。コンテストでも、奨学金でも、実際に使われるプロダクトの開発でも——第三者に評価された実績を一つでも多く作ることが、書類の説得力を決定的に変える。
保護者の方へ。海外からGIGA入試を目指すことは、情報の格差という壁との戦いでもある。しかしAliさんの体験が示すように、情報がなくても、塾がなくても、「やりたいことがあったらやる」という行動力を持つ子どもは道を切り開く。子どもが「これをやりたい」と言った時に、「無理じゃないか」と止めるのではなく「やってみなさい」と背中を押すこと——それがAliさんを西ジャワ島から慶應SFCへと導いた、最も大切なサポートだったかもしれない。
「一回チャレンジして、それが大事です」——西ジャワ島で軍隊の夢を諦め、鏡の前で一人で面接練習をした少年が、今、大学2年生として学会発表を控えている。その道筋は、チャレンジを止めなかったことで生まれた。
